サインデザインの手法
1.コミュニケーションと広告物:
屋外広告物はテレビ、ラジオ、新聞、雑誌など、他の情報メディアによるコミュニケーションと同様に、社会的コミュニケーションにおける必要な情報の供給という立場からその存在を価値づけられている。この立場から屋外広告を分類すれば、企業(コーポレート)サインと公共(パブリック)サインに大別することができる。
企業サインの内容は、企業広告としてポスターなどによる企業や商品イメージなどの訴求や、CI(コーポレート・アイデンティティ)のための企業名や商品名を表示したものなど、これによって自社イメージを記憶させ購買時点へと接続させたいという願望、また、自社社員及び流通過程の関係者の勇気づけなどを目的とし、その内容・種類は多彩である。
公共サインには、公共的な情報の表示にかかわるものの他に、公共機関、公共の施設において必要とする存在、位置、方向を表示するサインを目的としている。
また、屋外広告を広告訴求の機能による分類に従えば、テレビなどのよる直接訴求とCIなどによる間接訴求に分けられる。この場合、屋外広告は間接訴求に入り、企業イメージの向上に寄与する媒体であるということになる。
2.都市における環境:
人間の生活環境における必要な要素は、働く場所、住む場所、休む場所、遊ぶ場所といわれている。人が密集して居住する都市は、それらの要素を合理的に計画し、生活しやすい環境を造りだすことが必要である。
都市計画は人口、産業、土地利用、緑地および交通系統などの計画を組み合わせて立案され、都市のもつ機能を満たすために必要な方法を発見しようとすることである。その実現のためには市民の私権の自由な行使も制限されることがある。
都市における環境はその歴史のなかで概略次のような変化を見せてきた。
ヨーロッパの中世の都市では防壁をもち街路は狭く不規則なものであったが、ルネッサンス期によると商業の発達にともなって都市は著しく発達し、城壁や宮殿・寺院の広場は拡げられ、中世都市の改造が活発になった。
16~17世紀にかけて<理想都市>の構想が次々と発表された。都市は多角形の保塁、直線的な街路、広場などを備えることになる。
17~18世紀には中央集権国家の成立とともに、都市の軍事的意味は薄らいで、街路や広場の幾南学的な構成の美しさが重視される。この時、ローマのポポロ広場、ベニスのサンマルコ広場、パリのシャンゼリーゼ通りなどが建設された。
19世紀になると産業革命による工場工業制の発達によって、膨大な数の人々が都市に移住して労働者になった。さらに大都市の弊害から逃れるために、田園と市街地の長所を合わせもった田園都市を建設しなければならないという提案が着手された。
その後この考え方を発展させた衛星都市の構想が発表された。これらは幾南学的構成や、装飾的街路の建設を主体としたこれまでの近世都市計画とは異質のものである。
第1次世界大戦後、ル・コルビュジェは自動車交通と高層建築を結合し、しかも幾南学的で厳密な調和美にたって考えることを提案した。
このように流動し、変化する都市の機能や生活の要求は、複数で多様な人間の環境に対する生活心理と結びついている。
そして、現代では機械化された環境を少しでも人間のためにという方向で、問題を解決していくことが望まれている。
3.環境の形成と広告物:
都市には自然を取り戻したいという願望がある。自然との調和を求める人達の人間性の回復を希求する心が、あまりにも人工的、機械的となった空間での生活の拒否のあらわれであり、自然への回帰本能ともいえるものと結合への願いでもあろう。このことから環境に対する抵抗力が生まれ、その保全とか、緑化とか、緑の確保とかの様々な問題提起が行われることとなった。
都市や自然など人間を取り巻く環境は、人間に影響を与え、そこに生活する人々の人生観をも決定してしまう。
都市の視覚的環境は建築をはじめとする種々の建造物によって形成されている。これらの造形物は人々の目を強制的にその視覚の中に誘い込む。
屋外広告も当然これらの環境の視覚形成に参加することになるので、都市環境における広告景観形成者としての自覚のうえに立った製作態度が望まれる。そこで、環境に対する制作上の基本態度として[順応」と「改善」という2つの型をあげることができる。
1.環境への順応についての考え方:
ーー・その必要 環境を破壊しないこと
________環境との調和を守ること
ーー・その条件 刺激的な形態や色彩を押さえること
ーー・その効果 環境のなかでは軽い緊張感を与え環境を引き立てる効果を持つようにすること
2.環境の改善についての考え方:
ーー・その必要 環境をつくり変えること
ーー・その条件 集中力を持たせること
________被覆力を持たせること
ーー・その結果 人工的環境の形成のために整理された統一感を持たせ、全体として大きなスペース、
________例えばある街路全体、ある施設ある環境などの造形に参加する。
ここにあげた順応と改善に関する方法は、相反する考え方であるが、製作参加の条件の違いによって、いずれかの立場が要求されることになるので暖味な企画にならないためにも、いずれも積極的な態度であると理解して参加することが望ましい。そして、環境の形成にたいして望まれることは[何かを洞察さる」ことが必要である。
1.環境と色彩:
環境は色彩によって趣を変え、その価値も変わる。とりわけ日本の四季はそれぞれに色をもち、色彩の変化を楽しませてくれている。自然の持つ魅力はこの変化のなかにあり、変化こそが自然である。これに対して人工のものは自然のように変化することのないものとして造られるので、変化のためには作り変えが必要になる。しかし、人工物は常に一定で不変であることが望まれるから耐久性のある材料によって変化の起きないように工夫される。
色についてはわれわれの感覚は四季のように変化するものとして受け止めている。このような日常の都市環境とかかわる色の要素は次の通りである。
1.建物の色
a 材質の色
b 材質の加工による色
c 材質の塗装による色
2.植物の色彩
a 樹木の色
b 下草の色
3.道路の色
4.ストリート・ファニチャの色
5.展示物やウインドウの色
6.屋外広告物の色
7.照明
8.その他(移動するもの、人や車など)
これらの都市環境を構成するものは、お互いに他を刺激しあって全体を形成しているが、人工的配慮によって十分統制できるものである。
環境は色彩によってコントロールされているといっても過言ではない。人間の注意をひくための色彩が人間に背かれるということもある。個を全体に和合させることによって、人間にとって素晴らしい空間を造り出すために色彩の機能は十分な協力を惜しまないであろう。
2.色彩と表示効果:
街に出てみると広告物の何と赤が多いことか。色光では赤が遠方からでも弱い光のときでも見分けやすいということか、また、赤や黄色などの暖色系は進出色として近くに見えるということが原因なのか。それとも、色の好みによるものなのか。服装においては流行色があるが、広告物にはないのか。ただ目立つことのみが広告物の色彩としてそんなに大事なことなのか。いろいろと考えることが多い。
色彩は材質のもつ光の反射率によって決まるものである。プラスチック、塗料、コンクリートなどの物質は光の効果によって変わる様々なものがあるので、各種の材料が構成する広告物は単に色彩の調和論では解決しえない複雑さをもっている。一般に物が見えるためにはそのものの照明状態や大きさが関係するが、形が見えるためにはその形の色と背景になる色の間に相違がなければならない。形を知る上で図形の色と地色の色相や彩度が違っても、明度が似ているときは形は不明瞭になる。
このような可視効果が低い状態は、形が小さいとき、形が複雑なとき、両方の色が彩度が低いとき、それを見る距離が遠いとき、あるいはそれを照らす光が弱すぎるか、または反対に強すぎるときなどによく起きる。
厳密にいえば目立つということは、むしろ注意価値に関することである。単に見えやすいというだけでなく、周囲と異質であるということによって注意を引き付けるということ、つまり差異のあり方が問題となる。
環境における色彩は送り手の趣好によって選ばれるものでなく、それを見る人達の側からの問題として、注意とか、安全とかを中心とした視覚的調和と、安心と興味の混合した空間への憧憬にも応えるべきものである。
広告物にとって色彩は見る人達の歓迎を受ける手段であると同時に、反感を買う道具ともなりうることに注意しておきたい。
3.照明と表示効果:
屋外の照明による広告物の表示には、直接サイン、透過サイン、反射サインがある。それらに使用される光源は、白熱電球、蛍光灯、水銀灯、ネオン管、ナトリウム、ランプ、よう素ランプなどがある。
これらの表示の方式は諸光源の性質を使い分けることによって光の表示効果を出すことができる。照明によるこれらの広告物は、点滅による訴求をもちこむことによって効果を増すことができる。それは次のような理由による。
1.点滅の効果的な演出によって目を楽しませる
2.点滅による変化によって時間をもちこむ
3.点滅による視覚上の大きさの変化
4.反射によるネガタイプの表示
5.動きを見る楽しみ
これらの表示における変化は、テレビの前に時間を忘れるのに似たひとときを我々に与える。照明あたえられた演出効果と、動と静、明と暗の対比を利用した変化にあるバランスは、優れた訴求効果を期待できるものである。
屋外広告の知識より抜粋監修=建設省都市局公園緑地課編集=屋外広告行政研究会定価(本体4.660円+税)